1.対話集会を提起します

今回農水省は、一般国民に意見を求めるに当たって、膨大な資料を提供し、この内容についての意見の提出を求めています。

常識的に考えて、専門家以外の市民、農民、漁民などが、今回農水省が提起している方法書の縦覧という手続きを、まともに出来るとお考えであれば、それは過大な期待です。

このパブリックコメントの提出という制度そのものが、国民の意見を反映しない仕組みであり不要です。

この対案として私は、ラウンドテーブルによる市民、農民、漁民、研究者など、関係者による対話の場を提起します。

 

2.「開門するための」アセスメントです

  すでに農水省の方が、開門できない理由として、「想定できない不測の事態を生じるおそれがある」として、開門出来ないと主張されています。

  逆に言えば、「予測できないから開門して調査をする」のが開門調査です。

  開けないという結論を前提にしてのアセスであれば、6年や10年の歳月とお金をかけるのは、国民に対する冒涜です。

  「関係者の同意を得て」開門する、というスタンスは修正し、「開門するためのアセスメントである」と明記すべきです。

 

3.直ちに開門と調査、対策工事を

  公共工事の見直しは国民の総意です。

  先の参議院、さらに今回の衆議院と、国政選挙での国民の声を受け止めて下さい。

  行政は議会が決めた政策を行う所です。

  農水省に政策を決定する権限はありません。国民の意見によって「従来の公共事業のあり方に異議あり」と判定されているのに、いつまでも「イヤダ」と言うのはどういう神経なのでしょうか。

  裁判所が「開門せよ」国民が「異議あり」。それでも長崎県知事をダシにして、時間と税金を浪費するのは傲慢という他ありません。

 

4.世界の潮流を読んで下さい

  国内と海外の事例を参考にしましょう。

  国内では中海、海外ではアメリカのサンフランシスコ湾、オランダ、デンマーク、ドイツ、イタリアなどの欧米諸国はすでに、河口域での締め切りを止めています。

過去に作った河口堰なども対策工事がなされています。

韓国では、諫早湾の10倍に相当するセマングムという巨大プロジェクトが進行していますが、諫早よりマシなのは排水門を開けていることです。

開発途上国では、子供達への環境教育に力を入れ、開発では無く、自然環境の保護が観光資源の基になることを体験させています。

先進国の日本が公害の手本となり、さらにムダな公共工事の見本をさらすとは、いかにも皮肉という現象です。

金持ちのムダ使いという反省を、しっかり受け止めるべきです。

若い農水省職員の意見を聞いてみてください。

 

5.今回寄せられた国民の意見全てを真剣に受け止め、これに回答し、公表されることが行政府の義務です。

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説明会終了後、弁護団と漁民市民ネットワークは記者会見し対案を提起しました。
また、農政局に対案を渡し、「検討する」との回答を得ました。
以下に
佐賀大学有明海総合研究プロジェクトの「意見書」と
弁護団の「対案」を示します。

農業・防災と漁業が両立する早期開門を可能にする

開門方法と環境アセスメント
− 2010年5月の開門をめざして ―

2009415

よみがえれ!有明訴訟弁護団・原告団

有明海漁民・市民ネットワーク

A 開門に際しての環境影響評価の意義と農水省案の環境アセスメントの問題点

1 開門は早期に実施するともに,農業・防災と漁業が両立するように行うことが求められている

 19974月の潮受堤防閉め切りから12年が経過し,有明海漁業は年々深刻さの度合いを強めています。多くの漁民が漁業をあきらめ,多額の借金を抱えて自殺する漁民も少なくありません。漁業を基盤にして成り立っていた地域社会も深刻な打撃を受けています。
 それだけに,昨年627日の佐賀地裁の「判決確定後3年間の準備の後5年間にわたり開門せよ」という判決は,有明海漁民に大きな希望を与え,世論はこぞって支持しました。佐賀地裁は,開門はそれ自体が漁業被害軽減の方策であることから開門命令の判決を言い渡しました。また,開門すれば,これまで農水省がサボタージュしていた開門調査も実現できることから,開門に伴う開門調査実施を強く要望しました。開門による漁業被害の軽減と,開門調査をふまえた有明海再生の実現は待ったなしです。 同時に諫早湾干拓事業は昨年3月に終了し,干拓農地では営農が開始されています。
 したがって,開門は早期に行わなければならないとともに,干拓農地での営農や干拓事業の目的とされた防災に対する背後地住民の期待を裏切らないように配慮しながら行わなければなりません。

2 開門に際しての環境影響評価の意義

 環境アセスメントは、環境に影響を及ぼす恐れのある行為について、事前に環境への影響を調査、予測、評価して、必要な対策を検討し,環境への悪影響がないようにするための制度です。
 潮受堤防排水門の開門が、調整池の淡水を海水に換え、これまで調整池側から海域へという一方通行だった排水門の水の流れが双方向に変わる等の変化をもたらす以上、その影響を事前に予測し、対策が必要な場合は対策をとり,環境に配慮しながら開門する必要があることは誰も否定しません。
 農業・防災と漁業が両立する開門を実現する上でも,開門に際しての影響予測と対策の検討は重要です。
 そして,環境アセスメントには,本来,事業の特質をふまえた案件ごとの,柔軟で,科学的かつ民主的,集中的な対応が求められています。
 しかしながら,農水省が行おうとしている環境アセスメントは,次のような理由で,到底,支持できません。

3 農水省案の環境アセスメントの概要

 農水省が行おうとしている環境アセスメントの概要は,次のようなものです。

@ 環境アセスメントは,農水省の出先である九州農政局が行う。

A 検討する開門方法は,開門当初から排水門を全開とする開門方法,段階的に開けていき,最終的に全開とする開門方法,背後地の防災や構造物の安全等への影響を考慮し,制限を設ける開門方法の3種類とする

B 環境影響評価法に準拠して環境アセスメントを行う。

C 現況調査に1年,全体の手続に3年かかる。

D 環境アセスメントの後に関係者の同意を得る。

4 農水省案の環境アセスメントの問題点

 農水省案の環境アセスメントには,次のような問題があり,到底,支持できません。

(1) 九州農政局が単独で実施するのは不適当
 開門のための環境アセスメントは,開門することが前提のはずです。ところが,農水省は開門のための環境アセスメントをするといいながら,他方で,開門を命じた佐賀地裁判決に控訴し,いまだに裁判のなかで,開門は危険,農業,防災に支障をきたす,漁業被害も発生する,などと主張しています。その農水省の出先機関である九州農政局が単独で開門のための環境アセスメントを行うといっても,信頼が置けないのは当然ではないでしょうか。
 そもそも今回の開門は,佐賀地裁の開門判決が契機となって,日程にのぼってきました。この経過からすると,裁判のなかで開門を主張してきた原告漁民や弁護団の関与なしには公平な手続が期待できません。

(2) 検討対象の開門方法は3種類もいらない
 裁判を行っている漁民原告や弁護団が,現在,提案している開門方法は段階的開門です。開門当初から排水門を全開とする開門方法は,いまや誰も提案していません。しかも,この開門方法に関しては,中長期開門検討会議で,各種シミュレーション予測と、その影響回避にかかる対処策の費用見積が示されています。いまさら検討することはありません。背後地の防災や構造物の安全等への影響を考慮し,制限を設ける開門方法は,後で詳しく述べますが,段階的開門で目的を達成できますから,別に検討する必要はありません。
 検討対象の開門方法は,わたしたちが提案する段階的開門で必要十分です。

(3) 環境影響評価法に単純に準拠すべきでない
 環境アセスメント制度には、対象事業の種別や規模に応じて,必要性や費用対効果などの観点から様々なバリエーションがあります。
 我が国の環境アセスメント制度を概観すると,環境影響評価法を基本としつつも,発電所や重要港湾の港湾計画に定める港湾開発事業や都市計画上の市街地開発事業の場合などにみられるように、目的と必要性に応じ、更に修正・補完されています。また、自治体の条例によって環境影響評価法の対象外の事業についての環境影響評価手続が定められていたり、廃棄物の処理及び清掃に関する法律によって、廃棄物処理施設建設についての生活環境影響調査という簡易な環境アセスメント手続が定められています。
 「開門」は、我が国の法制度上、これらのどの手続きの対象事業でもありません。 そこで、開門における事前の環境配慮のためには、これらの制度を参考にしつつも、開門という行為の性質とこれまでの経緯や議論の成果をふまえ,適切な環境アセスメントはどのようなものかを,独自に検討することが必要です。

(4) いたずらに時間がかかりすぎる
 農水省の「開門アセス」は,対象事業でもないのに,単純に環境影響評価法に準拠してその手続を形式的にあてはめようとするあまり,無駄な手続が多く,全体で3年というとんでもない長い時間がかかります。 たとえば,1年かかると説明されている現況調査は,今回の開門においてはほとんど不用です。 なぜなら,干拓工事が開始されて以来実施されてきた環境モニタリングの詳細な調査データがあるからです。開門を実施する段階の「現況」というのは,潮受堤防締め切り後の現状のことです。19974月に潮受堤防が閉め切られてから12年が経過していますから,現状については,すでに十分なデータが蓄積されています。
 実際,短期開門調査の際にも,アセスはおろか、新たな現況調査は行われませんでした。 詳細なモニタリング調査のデータがあるのに,改めて1年もかけて調査をやり直すのは,税金の無駄遣いです。もし,モニタリングデータがあるのに,調査をやり直さなければならないとしたら,それはモニタリング調査がいいかげんだったということに他なりません。
 農水省は、「諫早湾干拓事業の潮受堤防の排水門の開門調査に係る環境影響評価の指針」において、「一般的な環境アセスメント項目に加え、「漁業生産」、「農業生産」、「背後地の防災」への影響についても評価する」としています。しかし漁業生産の予測や評価は、開門アセスでの主要なテーマとなる海域環境影響(効果)予測評価と重なります。また,農業生産や背後地の防災についても、農業用水の代替水源や,開門によって調整池の水位がマイナス1メートルで管理できなくなることに伴い,背後地の排水不良対策として排水機場の増設が必要であることなどは自明のことですから,わざわざ影響の予測や評価は不要なのに,これすら環境アセスメントの項目に加えようとしています。

(5) 環境アセスメント後に関係者の同意という2重構造の手続は不用
 そもそも環境アセスメントの手続は,利害関係人などの参加のもとに行われ,それ自体が合意形成のための手続です。また,開門のための環境影響評価は農業・防災と漁業が両立する開門を実施することを主要な目的として行われますから,それらの利害関係人がきちんと手続に参加できるように環境アセスメントを制度設計すれば,環境アセスメントと関係者の同意という2重構造の手続は不要です。
(6) 議論の経過やデータの蓄積が活かされていない
 開門については,短期開門調査レベルの開門であれば,すでに実績とデータがあります。また,干拓工事開始以来の詳細なモニタリングデータがあります。さらに,開門をめぐる問題点は裁判のなかでさんざん議論され,昨年は超党派の議員で構成される公共事業チェック議員の会と農水省担当者との勉強会で,開門を困難とする理由がすべて出され,その1つ1つについて徹底した議論がなされました。
 こうした蓄積を活かせば,形式的に環境影響評価法に準拠しなくても,開門にふさわしいように,科学的でかつ民主的な環境アセスメントの手続を工夫することは可能です。
 このように,実情をふまえない,形式的で長期にわたる農水省案は、深刻な漁業被害のなかで開門をまちわびる漁民の期待を裏切るものであり、同時に、国費のむだ遣いと言わなければなりません。

 そこで,以下のとおり,開門に際して検討すべき課題とわたしたちの提案する段階的開門をご説明し,それに必要かつ十分な科学的で民主的な環境アセスメントについて,ご提案いたします。
B 開門に際して検討すべき課題

1 検討すべき課題の概要
 一般に,環境アセスメントは,予定されている事業による環境の変化が懸念される項目を絞り込み,環境アセスメントの課題を抽出して,集中的・効率的に実施します。
 開門する場合に,何を予測・評価するかという評価項目や開門に際して前提問題として解決しなければならない事項などの検討課題については,裁判や超党派の国会議員で構成される公共事業チェック議員の会と農水省の勉強会のなかで,農水省から思いつく限りの開門を困難とする理由が出されていますから,これまでにすべて明らかになっています。

 整理すると,開門に際しての検討課題には,次のようなものがあります。

@ 海水の出入りに伴う,排水門近傍の速い流れの発生とそれに伴う濁りの発生による漁業被害,漁船航行への影響の有無,排水門の震動や排水門基礎の洗掘の発生とそれに伴う排水門の安全性への影響の予測とその評価および対策

A 調整池の汚水が短期間のうちに大量に諫早湾に放出されることによる影響の予測と評価および対策

B 調整池の水が淡水から塩水に変化することによる影響の予測とその評価および対策
(イ) 塩害→潮遊池等への塩水の進入や干拓地・背後地農地への潮風害の影響の予測とその評価および対策
(ロ) 淡水生態系→淡水性生物の塩水化による影響の予測とその評価・対策
C 開門に際しては,調整池に代わる農業用水の代替水源を確保しなければならない

D 調整池水位が海抜マイナス1メートル管理ではなく,潮汐作用によって変動するようになることから排水不良の防災効果の代替策として背後地の排水機場を増設しなければならない

2 環境アセスメントの評価項目

 以上の検討課題のうち,環境アセスメントの評価項目として,予測・評価の対象となるのは@ないしBです。

3 開門の前提として解決すべき課題

 検討課題のうち,CとDは,予測・評価をするまでもなく,開門に際しての対策が必要になる課題です。

(1) 代替農業用水の確保

 Cは,開門の影響を予測するまでもなく,開門によって塩水に変わる調整池の水は農業用水として使えなくなりますから,開門の前提として,必ず,代替水源の確保が必要になります。したがって,代替農業用水確保のための方策は,影響の予測・評価というような環境アセスメントの課題ではなく,「調整池の水に代わる農業用水はこのように確保しながら,こういう方法で開門する」という具合に,開門方法とセットで示されなければなりません。

 代替農業用水開発の方策については,裁判の原告・弁護団・支援者から示された4つの方法があります。第1に本明川河口に堰を設けて潮水と淡水が混合しないようにして,本明川に取水口を持ってくる方法,第2に仁反田川等の余剰水の利用,第3に干拓農地に近い諫早中央浄化センター(下水処理施設)からの放流水の再利用,第4にため池の設置です。

 これらの代替水源確保の方策の可能性と費用の比較,必要な工事期間を事前に検討し,いずれか,あるいは複数の組み合わせによる代替策を実施して代替農業用水を確保しなければ開門はできません。

 工事に長期間を要するようであれば,いつまでも開門できないことになりますから,本格的な工事の検討と共に,簡易にできる応急の代替水源確保策も同時に検討して,開門前に実施します。本明川河口に簡易な堰を設けて取水口を設けたり,とりあえずのため池を設置したりする方法が考えられます。

(2) 排水機場の増設

 調整池をマイナス1メートル管理していることによって達成している背後地の排水不良解消の防災効果は,全開門して排水門の外の海と同じような潮汐作用の影響を受けることになった場合,農水省の計算では秒速155.5立方メートルの能力を持つ排水機場があれば代替できるそうです。

 この点も,環境アセスメントによって予測・評価する必要はありません。開門を前提にする以上,環境アセスメントを待つまでもなく,背後地の排水機場の増設は直ちに着手すべきでしょう。

C わたしたちの提案する開門方法

 わたしたちが提案するのは,3段階の段階的な開門です。
3段階の段階的な開門を採用することによって,農業・防災との両立を慎重に図りながら,早期開門を実施することができます。また,漁業被害を少しずつ改善しながら,ノリ第三者委員会が提言した有明海再生のための開門調査も早期に実現することができます。

 第1段階は,短期開門調査と同じレベルの,調整池水位がマイナス1メートルからマイナス1.2メートルの範囲で20センチメートルだけ水位差が生じるような小規模の開門です。すでに短期開門調査時の実績がありますから,当時と同じように旧樋門に土嚢や仮設ポンプを設置し,短期開門調査時に塩分の上昇が見られた潮遊池の樋門は改めて補修し直します。また,今では干拓農地で営農が開始されていますから,とりあえずの仮設的な代替農業用水の手当てが終了した後に実施します。

 この短期開門調査レベルの小規模な開門の初期段階においては、徐々に海水の導入量及び排水量を増やすような開門操作を行います。これによって,まず,海水の塩分の凝集効果を利用して調整池内で巻き上げられた濁りを沈降させ,水質と底質の改善を図り,開門初期の濁りの拡散による周辺海域への悪影響を押さえることができます。また,海水導入量を短期開門調査時よりさらに緩やかに漸増させることにより、淡水生物が河川に避難する猶予を与え、開門初期に懸念される淡水生物の斃死などの事態を軽減することができます。

 第2段階は,排水門の開門幅や開門時間を調整しながら,次第に海水導入量を増加させます。その過程で,排水門近傍の速い流れの発生とそれに伴う濁りの発生による漁業被害,漁船航行への影響の有無,排水門の震動や排水門基礎の洗掘の発生とそれに伴う排水門の安全性への影響に配慮しながら,データを蓄積し,必要があれば対策工事を実施します。調整池の上限水位は背後地の排水機場増設の進捗状況に合わせて,背後地に排水不良が生じないように,マイナス1メートルから徐々に上げていきます。

 第3段階は常時開門です。現状では,常時全開門する方法と制限的開門と全開門を組み合わせながら常時開門する方法と2とおりの開門方法が考えられます。常時全開門する場合は,排水機場が調整池のマイナス1メートル管理と同程度の能力である毎秒155.5立方メートルの能力を持つレベルに増設された後に実施します。制限的開門と全開門を組み合わせながら常時開門する場合は,排水機場の増設はより少なくてすむでしょう。

 環境アセスメントは,各段階毎のモニタリング調査やその結果の検討とともに,公開・民主の原則に基づき並行的に行われます。

D 段階的開門の環境アセスメント

1 環境アセスメント実施の体制

 そもそも諫早湾干拓事業は国営事業ですから,その事業によって作り出された潮受堤防排水門の開門やそのための環境アセスメント,開門調査を国の費用と責任で行うのは当然です。

 同時に,わたしたちは,農水省まかせではなく,開門と開門アセスメント,モニタリング調査,必要な対策,開門調査の実施は,裁判の原告・弁護団,沿岸4県の自治体代表,沿岸各漁連の代表,干拓農地の農民代表,背後地の農民代表などの利害関係人と,裁判の原告漁民・弁護団が指名した各分野の研究者,環境NGO代表で構成される開門協議会を農水省に設置し,その協議による民主的な意思決定に基づいて実施することを提案します。

 なぜなら,第1に,農水省は開門のための環境アセスメントをするといいながら,他方で,開門を命じた佐賀地裁判決に控訴し,いまだに裁判のなかで,開門は危険,農業,防災に支障をきたす,漁業被害も発生する,などと主張していますから,農水省まかせにしたのでは信頼を得られません。第2に,そもそも開門とその環境アセスメント,開門調査は,裁判で原告となった漁民の主張を受け入れ,佐賀地方裁判所が開門を命じる判決を言い渡したことをきっかけに行われるものです。したがって,国が開門と環境アセスメントを実施する際に,裁判の原告となった漁民・弁護団の同意なしに進めたのでは,裁判を含めた全面解決にはなりません。

 この開門協議会は,開門と環境アセスメントを実施する前提として早期に結成し,以下の手続の全てにわたる実質的な意思決定機関とします。その会議はすべて公開し,議事録や会議資料は専用のウェブサイト上にすべて掲載して,公開・民主の原則のもとに運営されます。

2 環境影響評価法との違い

 開門の環境アセスメントでは,環境影響評価法の環境アセスメントと同じように,行おうとする事業の内容を明らかにし,現在の環境についての現況調査の結果,開門によって現在の環境がどのように変化するかの予測,その予測結果についての評価,影響を回避,軽減するための対策を文書で公表し,住民参加のもとに,環境に配慮した農業・防災と漁業が両立する早期開門を実現します。また開門は現在生じている漁業被害を軽減するとともに,開門調査を実施する過程でもありますから,開門調査の手続についても検討できるものでなければなりません。

 環境影響評価法の環境アセスメントの手続では,現況調査,予測,評価をどんな方法で行うかを方法書にまとめて公表し,意見を求めて,方法を決定し,現況調査,予測,評価を実施し,その結果を準備書にまとめて公表し,意見を求めて,最終的に評価書にまとめます。すなわち,3種類の文書の公開と意見聴取が主要な手続です。

 わたしたちの提案する段階的開門においては,出発点の段階で,干拓工事開始以来のモニタリング調査の詳細な調査結果があります。しかも気象庁・環境省・長崎県等が継続調査している項目も少なくありません。第1段階の短期開門調査レベルの小規模開門は,すでに短期開門調査の際に実施した実績があります。さらに,開門の際の環境アセスメントの課題や評価項目の抽出については,超党派の議員で構成される公共事業チェック議員の会と農水省担当者との勉強会や裁判のなかでさんざん議論された経緯があります。また,第2段階の開門は段階的に1つのステップの開門の結果を検証しながら,次の段階の開門に進み,開門と環境アセスメントは並行して行われます。

 同時に,開門は漁業被害を軽減する過程であると同時に,開門調査実施の過程でもあります。

 したがって,開門に際しての環境アセスメントにおいては,杓子定規に環境影響評価法の環境アセスメント手続をあてはめて,いたずらに不要な手続を重ねるのではなく,段階的開門の性格と,短期開門調査の実績や,国会,裁判所における議論の成果,民主的な開門調査の実施などを踏まえた必要十分な手続は何かを検討することが重要です。

 以上を踏まえるならば,すでに裁判や国会議員の勉強会のなかで開門に際しての課題が出尽くしている開門のための環境アセスメントにおいては,対象とすべき環境要素や調査方法などを絞り込み実情に即した環境アセスメントを実現するための独自の方法書の手続を先行させるのではなく,次のようにして,方法書の機能を併せ持つ準備書を公開することから,手続を開始することを提案します。

 3 準備書の記載事項

(1) 開門方法

 段階的開門における3段階のそれぞれの開門方法と開門の前提になる農業用水代替施設と排水機場増設の準備工事の内容,工事期間について記載します。

 農業用水代替施設については,第1段階の開門を早期に実施するためのとりあえずの簡易な農業用水代替施設と,裁判の原告・弁護団・支援者から示された4つの本格的な農業用水代替施設について,費用,必要な工事期間もいっしょに示して,どれを実施するか,あるいは,どれとどれを組み合わせて実施するかの判断ができるようにします。

(2) 環境の現況

 開門を実施するにあたって,新規に現況調査を行う必要はありません。

 なぜなら,干拓工事が開始されて以来実施されてきた環境モニタリングの詳細な調査データがあるからです。第1段階の短期開門調査レベルの開門を実施する段階の「現況」というのは,潮受堤防締め切り後の現状のことです。19974月に潮受堤防が閉め切られてから12年が経過していますから,現況については,すでに十分なデータが蓄積されています。

 準備書には,これらのデータを整理して掲載すれば十分です。

 実際,短期開門調査の際にも,新たな現況調査は行われませんでした。さらに言えば,短期開門調査の際には,シミュレーションの予測が行われただけでした。

(3) 評価項目毎の予測結果と評価

@ 海水の出入りに伴う,排水門近傍の速い流れの発生とそれに伴う濁りの発生による漁業被害,漁船航行への影響の有無,排水門の震動や排水門基礎の洗掘の発生とそれに伴う排水門の安全性への影響の予測とその評価および対策
第1段階の開門については,海水の出入りは,排水時については潮受堤防閉め切り後12年間の実績がありますし,海水導入時については短期開門調査の実績がありますから,それらを示せば十分です。
 第2段階の開門については,開門方法自体が,これらの評価項目に影響が出ないように,排水門の開門幅と開門時間を少しずつ大きくしながら海水導入量を増やし,後背地の排水機場増設の進捗状況に合わせて調整池水位を上昇させるというものですから,評価項目についての調査・予測方法およびシミュレーション予測結果,影響が予想された場合の排水門の補強工事や排水門基礎の洗掘防止のための工事などの対策などを記載します。たとえば秒速1.6m以上の水流で洗掘が生じるという農水省の主張が誤りだったことは過去のデータで実証されていますから、実際にはどういう条件の時に、どの地点で、どの程度の流速が発生するのか、そして洗掘はどの位の流速以上で発生しそうかなどを調査していきます。

A 調整池の汚水が短期間のうちに大量に諫早湾に放出されることによる影響の予測と評価および対策。
短期開門調査の実績とともに,開門初期の汚水排水は,現行の排水量よりも少ないレベルから始めて,海水導入による巻き上げの濁りデータを確認しながら排水し、しかも徐々に漸増させる方法をとりますから,現状以上の濁りが海域に出ることはありませんので,それを記載すれば十分でしょう。
 第2段階以降の開門では,すでに調整池は潮受堤防の外と同じ海水ですから,この評価項目は意味を失います。

B 調整池の水が淡水から塩水に変化することによる影響の予測とその評価および対策
a 塩害→潮遊池等への塩水の進入や潮風害の影響の予測とその評価および対策
潮遊池等への塩水の進入については,短期開門調査の際の潮遊池の塩分濃度データを基礎に当時の樋門改修工事を見直して,塩害発生を防止するに足る樋門改修工事の内容を示します。潮風害防止のためには,防潮ネットの設置などの対策を記載します。
 第2段階以降の開門では,モニタリングの結果を踏まえて,対策が必要な場合には対策を実施すること,予想される対策の内容について記載します。

b 淡水生態系→淡水性生物の塩水化による影響の予測とその評価・対策
短期開門調査の実績をふまえ,塩分データと淡水性生物の様子を観察しながら,短期開門時よりも開門当初の海水導入量を緩やかに漸増させ,淡水性生物が本明川などの河川に避難する時間を十分に保証すること,したがって影響は軽微なものにとどまることを記載します。
 第2段階以降の開門では,すでに調整池は潮受堤防の外と同じ海水ですから,この評価項目は意味を失います。

(4) モニタリング調査内容と予想外の対策が必要になった場合の手続

 漁業と農業・防災を両立させるために3段階の慎重な開門を実施しますが,さらに慎重を期して,評価項目に関するモニタリング調査を実施することにし,その調査方法と,調査の結果,当初予測できなかった対策が必要になった場合,その対策工事の必要性と工事内容について記載した文書を準備書の手続に準じて公告・縦覧し意見聴取する旨を記載します。なお底質調査のために農水省が従来採用してきたスミス・マッキンタイア採泥法は信頼性に乏しいので、コア採泥法も併用することとします。

(5) 有明海再生に向けた開門調査の内容

 開門は漁業被害を軽減する過程であると同時に,有明海再生のための開門調査の過程でもあるわけですから,開門調査の内容についても記載します。
(6) 開門実施時期
 短期開門調査レベルの小規模な開門は,短期開門調査の実績などを踏まえれば,添付した表「段階的開門法の概要」のとおり,遅くとも来年2010年5月には可能です。

 それを記載するとともに,具体的な開門時期については,意見聴取やパブリックコメントの結果を踏まえ,開門協議会において民主的に決定する旨をあわせて記載します。
4 準備書の公告・縦覧,意見聴取やパブリックコメントの実施

(1) 公告・縦覧

 準備書は沿岸各自治体の役所,公民館などで縦覧できるようにします。その期間は環境影響評価法における方法書や準備書の縦覧期間に準じて1ヶ月とします。干拓農地や背後地の方,沿岸漁業者には,特に身近な施設で縦覧できるように配慮します。また,インターネットに開門環境アセスメントの専用ウェブサイトを開設して,だれでも,PDFファイルにした電子データを閲覧したりダウンロードしたりすることが出来るようにします。こちらは,施設の制約がありませんので,掲載の期限はありません。こうした縦覧の開始は,市政だよりなどの公的出版物および新聞などを通じて公告します。

(2) 意見の聴取

 準備書に対して,専用ウェブサイトを通じて,あるいは郵送でだれでもパブリックコメント形式で意見を述べることができます。

 意見は,評価項目の選定や予測方法,評価をはじめ準備書の記載内容全般について述べることができ,制限はありません。

 こうした意見聴取の期間も,環境影響評価法における方法書や準備書に準じて,縦覧開始後1ヶ月と2週間とします。

5 評価書の公告・縦覧
 準備書に対して寄せられた意見を踏まえ,必要があれば準備書の内容を補正して,評価書を作成し,公告・縦覧します。

 公告・縦覧の方法は準備書と同じです。縦覧の期間も環境影響評価法の評価書に準じて1ヶ月とします。ウェブサイトへのPDFファイルにした電子データの掲載は,準備書と同様に期限はありません。

6 専用ウェブサイトを通じた開門実施中のモニタリングおよび開門調査データの公開と,常時の意見聴取
 開門実施中のモニタリングや開門調査の調査結果は,専用ウェブサイトでデータを公開し,多くの研究者が自由に研究できるようにします。また,専用ウェブサイトには,いつでも自由に書き込めるコーナーを設けます。ここでは,研究者が研究成果に基づく意見を述べたり,漁民や市民が調査だけではカバーしきれない日々の経験と実感に基づく情報を提供したり,意見を述べたりできるようにします。

 こうして専用ウェブサイトを活用して,多くの英知を集めながら,開門のため
の環境アセスメントをより実りあるものにします。

E 結論

 以上のように,すでに実績のある短期開門調査レベルの小規模な開門をまず実施し,次に段階的に開門の規模をステップアップさせながら最終的に常時開門をめざす3段階の開門方法を採用することによって,農業・防災との両立を慎重に図りながら,早期開門を実施することができます。また,漁業被害を改善しながら,有明海再生のための開門調査を早期に実現することができます。
 しかも,こうした早期開門であっても,段階的開門の特徴を踏まえた柔軟な環境アセスメント手続を採用することによって,科学的かつ民主的で必要十分な環境アセスメントと開門調査が実施できます。
 ギロチンと呼ばれた19974月の潮受堤防締め切り以来12年が経過し,いまや開門はまったなしです。
 この要綱で示した開門のための環境アセスメントが一日も早く実施され,来年2010年5月には農業・防災と漁業が両立する開門が実現することを願ってやみません。

以 上

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意見募集に応えて、私は以下の内容で農政局に投稿しました。

1.開門協議会を設定する。
4月15日の説明会では多数の意見が出され、私達一般市民の声を提起する余裕がありませんでした。
この諌早湾干拓事業を始める時から、農水省の方々は事業の影響を受ける漁業者、農業者あるいは一般市民の意見を十分に汲み上げて来なかったツケが今、表面化しています。
今後は、これら当事者である漁業、農業はもちろん、納税者であり地域住民である市民、研究者そして裁判の原告と被告の行政関係者などによる円卓会議を開催されることを提案します。
日本全国の方々、あるいは全世界の方々がこの事業に注目していることを受け止め、傍聴あるいはメディアへの公開など、皆さんへの情報伝達と批判を受けることを原則として下さい。
2.農水省の若い職員の関与を促してください。
政策決定、プロジェクトの運営、会の設定など、あらゆるシーンに若い目線からの提言、関与を積極的に採用してください。
諌早湾干拓事業はこれまで多くの債務を重ね、これからも多額の事業経費が予想されます。さらに、有明海をはじめ地域の環境と経済への影響は予測がつきません。
次世代の方々が意見を出せる状況ではないことから、せめて身内の職員の方々の積極的な関与を期待します。

従来は、大臣室でのトップの方々による密室の話し合いが報道されるのみで、エライ人、声が大きい人の意見が聴取される偏ったコミュニケーションに国民のフラストレーションが溜まっています。
世界の先進国としての度量を今こそ農水省から発信してください。

開門アセスへの意見公募 (09.09.20 更新)

九州農政局は09年8月、開門調査のためのアセス方法書を公表し、これに対する意見の公募を開始した。

私は次のように意見書を作り、提出した。 (09.09.16)


諌干アセスの説明会 (09.05.16更新)

2009年4月15日熊本市で説明会があった。熊本農政局の資料によると、正式名称は

「開門調査に係る環境影響評価書骨子(素案)説明会」です。

   
参加者へビラ配布   開始前のメディア    農民代表の意見    弁護団の会見

  九州農政局ホームページに方法書骨子(素案)が公表されています。併せて意見募集もあります。
http://www.maff.go.jp/kyusyu/press/seltukei/090415.html