佐賀地方裁判所は04年8月26日、諫早湾干拓工事の差し止めを命じる決定をした。

有明海沿岸漁民106人が、国営諫早湾干拓事業の工事の差し止めを求めて仮処分の申請をしていた。

榎下裁判長は事業と漁業被害の因果関係を認め「損害を避けるためには事業全体を再検討し、必要に応じた

修正を施すことが肝要」と漁民の要求を認めた。

農水省は工事の中止を指示し、工事現場の重機などの動きが止まった。

 
 引き上げるダンプ       放置された無人の重機    04.08.28 黒崎工事現場にて

****************** あなたの意見・要請を送ろう。**************************************************************************************

小泉首相  http://www.kantei.go.jp/jp/forms/goiken.html

亀井農水大臣 
http://www.voice.maff.go.jp/maff-interactive/people/ShowWebFormAction.do?FORM_NO=4

金子長崎県知事 http://www.pref.nagasaki.jp/koho/governor/teigen.html
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決定の要旨と弁護団の声明は次のとうりです。

堀良一弁護団事務局長から提供頂きました。

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  決定の要旨

(命令の主文)

 債務者は、本案の第一審判決言渡しに至るまで、国営諫早湾土地改良事業(国営諫早湾干拓事業)の工事を続行してはならない。

(被害について)
(それぞれの被害を概観し,特に,ノリ養殖の実態に触れながら)
このような事態に鑑みると,特にノリ養殖を営む債権者らの前記漁獲高の減少は,将来の経済生活の面で,極めて重大で深刻な影響を与えていると認められる。

(因果関係について)
(以下のとおり,農水省の対応に不快感を示しながらの認定です)
 民事保全手続における因果関係の立証の有無については、通常人が特定の事実
が特定の結果発生を招来したという関係の存在、確信するに至らなくとも一応確
からしいという心証を持ちうるものか否かということで判断すべきである。
 ノリ不作等検討委員会が「諫早湾干拓事業は重要な環境要因である流動および負荷を変化させ、諫早湾のみならず有明海全体の環境に影響を与えていると指摘していること、種々の調査結果や分析に基づき、多数の学者が本件事業が有明海において生じた漁業被害に影響を及ぼしている旨の見解を示していること、短期開門調査に合わせて水質環境調査を行った研究グループが潮受堤防建設により大規模な赤潮が発生しやすくなったとの調査結果を報告していること、漁民の多くが本件事業と漁業被害との間には関連性があると実感していることなどを考慮すれば、因果関係の疎明はあると認めることができる。
 債務者らは自らノリ不作等検討委員会を設置し、同委員会が中、長期開門調査を提言したにもかかわらず、同調査を実施していない状況に鑑みれば、中、長期開門調査が行われなかったことによって事実上生じた「より高度の疎明が困難になる不利益」を債権者らのみに負担させることはおよそ公平とは言いがたい。

(保全命令の必要性は再生の必要ありです)
 本件事業が開始されるに当たって行われた環境影響評価で予測された範囲を超える地域にまで被害が及んでいることが一応認められ、かつ、その漁業被害の程度が深刻であって、本件事業による債権者らの損害を避けるためにはすでに完成した部分及び現に工事進行中ないし工事予定の部分を含めた本件事業全体を様々な点から整地に再検討し、その必要に応じた修正を施すことが肝要となる。
 したがって、重要なのは本件事業の一時的な現状維持であり内部堤防工事などの差し止めであっても債権者らに生じる著しい損害または急迫の危険を避けるために必要というべきであり保全の必要性は認められる。

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弁護団声明

佐賀地裁の画期的仮処分決定をふまえ,
有明海再生にむけ,いまこそ諫干の歴史的転換を
2004年8月26日
よみがえれ!有明海訴訟弁護団

 本日,佐賀地裁は,有明海漁民106名の申請にかかる国営諫早湾土地改良事業(諫早湾干拓事業)差止の仮処分事件において,漁民の申請を全面的に受け入れ,国に対し,本件干拓事業の工事を続行してはならないと命じる仮処分決定を出した。
 決定は,本件干拓事業と有明海異変・漁業被害の法的因果関係を明確に認定し,事業を厳しく断罪した。

 豊かな干潟が広がる諫早湾は,豊饒の海・有明海を支える要ともいえる自然環境であり,有明海漁業における漁業資源を涵養し,漁場環境を維持する上で欠くことのできない自然の恵みであった。この自然の恵みは,有明海漁業を基礎とする地域経済を支え,独特の地域文化をはぐくんできた。干潟や浅海域などの湿地環境を保全しようとする地球環境保全の国際的な潮流の中にあっては,我が国を代表する重要な自然環境として内外の注目を集めてきた。これを保全することは,有明海漁業と地域経済・地域文化を守る上で不可欠であり,地球環境保全の取組におけるわが国の国際的責務でもある。

 本件干拓事業は,こうした重要な自然環境を破壊しながら進められた。しかも,その事業たるや,計画自体,なんらの必要性・合理性が見いだせないばかりか,費用対効果すら,いまや事業者の国自身が投資した費用を上回る効果を生み出さないと自認せざるをえない状況にあり,我が国における無駄な公共事業の典型ともいえるものである。

 本件干拓事業は,着工早々から諫早湾内における漁業に深刻な打撃を与えてきた。とりわけ1997年4月の潮受堤防締切後は,有明海の豊饒さを支えてきた海洋構造への深刻な悪影響が顕在化し,かつてなかった赤潮の頻発・大規模化など,有明海異変と呼ばれる有明海の広範囲に及ぶ環境悪化が顕著となった。
 そのため漁場環境は一変した。有明海の魚介類は激減し,海苔養殖業は毎年のように不作に見舞われている。廃業する漁民は加速度的に増加しており,有明海漁業そのものが存亡の危機に立たされている。漁民の中からは自殺者が次々に現れ,借金苦から母親と心中を図った痛ましい承諾殺人事件の悲劇までも生んでいる。いまや,本件干拓事業がもたらした漁業被害は,極限にまで達しようとしている。

 これまで本件干拓事業と有明海異変・漁業被害の関係をかたくなに否定し続けてきた国の言い逃れは,本仮処分決定によって明確に否定された。
 国は,決定にしたがい,ただちに本件干拓事業を中止すべきである。
 そのうえで,排水門を開門し,本件干拓事業の悪影響を取り除くことを主眼とした有明海の真の再生に,早急に,着手すべきである。
 本件干拓事業によって,生業ばかりか命さえも奪われている有明海漁民の現状は,もはや一刻の猶予も許さない。

 同時に,無駄な公共事業の典型である本件干拓事業に明確は司法の判断が下ったいま,いまこそ,世論を無視し,全国各地で,環境破壊の無駄な公共事業を推し進めて暴走する行政のあり方を根本的に転換すべきであると強く訴えるものである。
  
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干拓工事 止まる