2004年7月、国際生態学会 湿地部門がオランダで開催され、閉会にあたり決議書が

採択されました。

釧路公立大学の小林聡史教授のご好意により、先生の翻訳で提供いただきました。

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釧路公立大の小林です。

今月下旬釧路でも日本生態学会の大会が開催され湿地再生等が議論されます。

国際生態学会(通称インテコルINTECOL)の本大会は大体4年ごとに開催されますが、

それとは別に国際生態学会湿地部会も4年ごとに開催されています。

(オリンピックの夏季大会、冬季大会みたいなものと思っていただければよいでしょうか)

湿地に関する科学議論だけで国際会議が開催されること自体、日本の生態学全般の中

での湿地の位置付けとはまだまだ差があると考えていいでしょうが、その湿地部門の

国際会議が先週オランダのユトレヒトで開催されました。


オランダは長い干拓の歴史を持ち、その弊害に関しても科学的知見を蓄積してきました。

さらに国際湿地保全連合はじめ自然保護関係の国際組織の本部が多数オランダに

あります。またオランダ政府はラムサール条約釧路会議で採択された湿地管理計画作

りのガイドライン(通称『釧路ガイドライン』)を用いて途上国関係者の研修を10年続けて

来ました。


この会議で採択された決議は、ラムサール条約のように政府の思惑が重い足かせにな

っている決議と違って、かなり単刀直入にものを言っているところがユニークです。

ヨーロッパの状況を反映した部分や後半部分をはしょった概略版を紹介します。

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第7回国際生態学会湿地部門(国際湿地会議)で採択された最終決議

2004年7月25-30日、ユトレヒト(オランダ)

最重要事項の中でも、パンタナル、エバーグレーズ、ドナウ・デルタ、ワッデン海の

ような価値があり特徴的な国際的に重要な湿地を保存すること、そして生態系アプロ

ーチと予防原則の実施が重要であると、第7回国際生態学会(INTECOL)湿地部門参加

者は見なした。世界的な湿地のワイズユース、保全、再生が、気候変動、人口増加の

圧力、予期される経済開発との関連で議論された。

80ヶ国以上からINTECOL会議に参加した、大学や研究機関、湿地や自然管理プログラ

ムの関係者、900名以上は、湿地科学、自然資源管理、水政策、自然保護といった幅

広い分野を代表しており、総合水資源管理、過去と未来の気候変動、アジア、アフリカ、

中南米における経済開発によって予期される影響との関連において、湿地機能、湿地の

生物多様性、水文学、食物連鎖の維持(例:魚類生産)、湿地再生に関する大量の新しい

科学的情報を議論し、次の項目について合意に達した:


1. 広大な湿地域での埋立事業は、おそらくオランダ西部地域の歴史的な開発が最も

  典型的な例となっていると思われるが、大きな経済的成功と社会的貢献をもたらして

  きたかも知れないが、それと同時に湿地機能の働きに重大な障害をもたらすようにな

  り、地盤沈下、泥炭の酸化、水浄化能力の破壊といった深刻な問題の原因となり、大

  規模な洪水の危険を増加させ、その結果治水のために莫大な費用のかかる人工的構造

  物と継続したポンプ作業とを組み合わせるしかなくなっている。埋立の歴史を通じて、

  自然生態系と生物多様性は極めて深刻に損害を与えられ改変されてきていることは

  明らかである。


2. 批判的かつ徹底した事業の生態学的結果と費用便益の分析なしでは、広大な湿地

  域の埋立や河川における劇的な水力事業(例:ダム)は今後一切許されるべきではない。

  実際に、環境上の災害をもたらした過去の事業に関する生態学的情報はすでにたくさん

  入手可能であり、大規模な干拓事業や主要な水力転換は、生態学的そして社会的恩恵を

  維持する、より小さな多目的事業によって全般的に置き換えることが出来る。


3. 今後は、『ワイズユース』の原則が、世界中の主要な湿地域における土地利用計

  画作りの基礎となるべきである。この原則は、湿地は水を抜かれるのではなく、魚貝

  類生産、水質改善、洪水時の水保持、炭素貯蔵、木材生産そしてエコツーリズムとい

  った経済的にも重要な生態系サービスの持続的利用を伴った、そのままの形での開発

  を考えることを意味している。
 

4. 北半球の広大な泥炭地、そしてアジアの熱帯泥炭地は、世界的な炭素貯蔵の点に

  おいて極めて重要である。燃料や園芸目的によるこれ以上の泥炭の掘り出しは、炭素

  貯蔵能力のさらなる損失となり、同時に掘り出された泥炭が急速に酸化して二酸化炭

  素となることにつながる。

5. 湿地における漁業及び狩猟はやりすぎになってきており、主要な湿地域の多くに

  おいては破壊的である。


6. きわめてしばしば、湿地の喪失は、元来の湿地が持っていた主要な特徴に欠け、

  そのため価値がかなり少ないものとなってしまうような、異なる種類の湿地建設によ

  って埋め合わせられてしまっている。短い時間枠の中で再生が可能な湿地の種類は限

  られている。それゆえ、現存するそのままの湿地の保全こそが、最優先されることになる。


7. 生物多様性再生の管理上の目的は、小さな地域での目的を設定するのではなく、

  地域レベルで考慮されるべきである。


8. 湿地の徹底した生態学的理解が、湿地保全のための鍵となる。世界各地で大学と

  政府が卓越した研究拠点(COE)を設立し、その拡張を図り湿地保全実施を確かなもの

  とすることが基本となる。管理は順応的なものである必要があり、意志決定は予防原

  則と進行中の科学的研究、目録作りや評価に基づく必要がある。


9. 潮の影響を受ける淡水湿地は重要な湿地のタイプとなっており、人間活動によっ

  て著しく干渉されており、世界の多くの場所でさらなる破壊によって脅かされている。

  これらの湿地は高い優先度を持って保護されるべきである。

  湿地が生物多様性、水貯蔵、洪水緩和、水質改善、渡り鳥、孵化場、食物連鎖の維持、

  炭素貯蔵にとって極めて重要であることを認識し、気候変動、経済開発、そして関連

  する過剰な漁業、社会基盤整備、治水事業、汚染や採掘といった人間活動の結果として、

  湿地の将来にとっての脅威となっていることに極めて深刻な懸念を持ち、特にラムサール

  条約、生物多様性条約やその他の国際条約の締約国による決意表明を賞賛し、他の

  幅広い国際協定やプログラムが提供する湿地保全の機会に注目し、自国内のみならず、

  国際NGOや調査及び管理の支援を通じて世界の多くの地域における湿地保全とワイズ

  ユース促進に努めているオランダ政府の業績を高く評価し、ラムサール条約の締約国

  138ヶ国が、自国内にある国際的に重要な湿地(登録湿地)に該当するすべての湿地を

  識別することと、それらの保全とワイズユースを促進する義務を負っていることを確認する。

  [以下略]

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